痔のなかで、裂肛(切れ痔)は、とくに便秘気味の若い女性に多くみられる痔です。肛門内側の皮膚が切れるので、痔のなかでも痛い病気の代表です。ではなぜ、女牲に裂肛が多いのでしょうか?
便意は、大腸のぜん動運動によって、腸壁が刺激されて起こります。女性は男性よりも筋力が弱いため、ぜん動運動そのものが弱いからと考えられます。また、女性の排卵と月経などをコントロールしているホルモンに、黄体ホルモンがあります。 黄体ホルモンにはぜん動運動を抑える働きがあり、便秘になりやすくなります。便秘になると硬い便を無理に出そうとして、裂肛になるケースが多くなります。
もう一つとして、女性はダイエットに励む人が多くいます。手っ取り早いダイエットとして食事の量を減らす女性も多く、そのことが原因で便秘になりやすくなります。便秘になると、やはり無理に排便しようとして、裂肛になるケースが増えることになります。
裂肛ができるのは、 歯状線より下の肛門上皮の部分です。どの部分でも切れるわけではなく、 尾骨側(背中側)の後方に多いのが特徴です。6時の位置(肛門の後ろ側)で、裂肛の80%がこの位置に発生します。 直腸からおりてくる便が肛門の背中側にぶつかること、 また肛門の背中側は血流が少ないために炎症を起こしやすいことなどが原因です。
裂肛の最大の原因は、 硬い便や太い便を無理に排出することです。 無理に排便しようとすると、 肛門上皮 (便が通過する部分の肛門の皮膚) が裂けて起こります。また、 慢性の下痢症になると、 肛門上皮がつねに水様性の便にさらされることになりますので、炎症を起こしやすくなり、 裂肛の原因になります。
裂肛には「単純性裂肛」と「慢性潰瘍性裂肛」の二つのタイプがあります。
・単純性裂肛
便秘になり、硬い便をいきんで出したり、慢性の下痢による炎症などが原因で肛門上皮が裂けたものです。便秘の女性に見られる裂肛の大半がこのタイプです。単純性裂肛では、肛門上皮の再生力は残っています。その下の肛門括約筋は傷ついていません。多くの場合、保存療法や食生活の改善で便秘を解消し、患部を清潔にして消炎薬を使えば手術なしで治ります。
・慢性潰瘍性裂肛
単純牲裂肛をそのまま放置しておくと、何度も同じところが裂けます。深くなり、傷が内肛門括約筋にまで及ぶようになります。その結果、裂肛の周りに炎症が起こり、肛門の奥に炎症性のポリープができたり、裂け目に潰瘍ができたりして、肛門上皮が再生できなくなります。さらに、肛門の縁には見張りイボ(皮膚痔)というものがあらわれてきます。
こうなると肛門が狭くなり、便が細くなったり、排便しづらくなったりします。手術によって裂肛とポリープ、それに見張りイボを切り取ることになります。
排便の最中、肛門に「ピリッ」と痛みを感じた経験はないでしょうか?実はこれも裂肛で、誰しも一度くらいは経験があると思います。通常の皮膚の場合、「ピリッ」と感じる程度の傷なら数日で治癒します。しかし、肛門上皮の傷は特殊な環境下にあるため治りづらく、こじらせて慢性化していきます。
もうひとつ、裂肛を慢性化させてしまう理由として、排便のたびに起こる痛みがあります。この痛みが嫌で、排便を我慢してしまうことが原因となるのです。排便を我慢すると、便はますます硬くなります。痛みを我慢して硬い便を排出したときに、治りかけていた裂肛の傷口をこするため、また肛門粘膜が裂けます。肛門粘膜が裂けると、切れた粘膜が治るときに引きつれを起こします。裂肛を繰り返すたびに肛門粘膜の引きつれが重なり、肛門が少しずつ狭くなってしまいます。これを「肛門狭窄(こうもんきょうさく)」といいます。
肛門狭窄になると、排便はあるのに便は出にくく、力むと鉛筆の太さほどの便がようやく出てくるようになります。患者さんのなかには、脂汗をかきながらー時間以上もかかってしまうような方もいます。当然、QOL(生活の質)は非常に低下します。
痛いから卜イレを我慢する→便が硬くなる→切れる
こうした悪循環が繰り返されていくことで、傷は深くえぐれ、潰瘍化していきます。傷は炎症を起こし、見張りイボや肛門ポリープと呼ばれる突起物かできてしまいます。肛門か狭くなってしまったら「時すでに遅し」で、治す方法は手術をして肛門を広げるしかありません。
1. 肛門マッサージ
裂肛の場合、症状によって治療法も変わってきます。ごく初期や急牲の場合、保存療法を選択します。すなわち、外科的な手術ではなく、生活改善や薬の処方などによる治療法です。裂肛の最大の原因は、便秘による硬い便です。そこで便秘解消のために、食生活を見直します。食物繊維を十分に含んだ食べ物と水分を十分に摂っていただきます。また、入浴や座浴で患部を清潔に保つようにもします。
こうした生活改善とともに、薬も用います。たとえば、便をやわらかくして排便を楽にする内服薬、排便時の痛みを抑える塗り薬、肛門に注入する軟膏やゼリーを用います。症状によっては、当院では「仙骨硬膜外麻酔によるマッサージ」を行います。仙骨硬膜外麻酔では、肛門周囲の痛みが完全に取れます。痛みが完全に取れたあと、硬く狭くなった肛門括約筋を正常な状態になるまでマッサージし、引き伸ばします。マッサージの時間は10秒程度です。道具はいっさい使用しませんし、入院の必要もありません。翌日の排便から、痛みはほとんどありません。
この方法は当院で1978年に開発したもので、年間300例ほど行っています。学会や論文でも発表され、高い評価を得ています。
2. スライディング・スキン・グラフト法
スライディング・スキン・グラフ卜法(SSG法)、すなわち皮膚移動術は、入院が必要になります。肛門マッサージでは治らないような症例に行います。
腰から下に麻酔をかけ、器具で肛門を広げます。肛門ポリープや潰瘍化した傷口、見張りイボなどを切り取り、同時に、狭くなった肛門を切開して広げます。切り取った傷口の部分に、肛門の外側の正常な皮膚をスライド(移動)させて縫い合わせます。スライドした皮膚が収縮することはほとんとないため肛門管の広さが確保されます。
(※上図2)血管を結紮し、痔核とその後方の皮膚を切り取る。
(※上図3)痔核を切除した部分を縫う。
適応:肛門上皮に余裕のない慢性裂肛、術後肛門狭窄など
裂肛の部分および潰瘍や見張りイボを切除し、肛門の外側の皮膚の一部を移動させ、肛門狭窄を改善する手術です。
~内肛門括約筋側方切開術~
別名「LSIS」と呼ばれ、イギリスで開発された治療法で、多くの肛門科の専門病院で行われています。下半身麻酔や局所麻酔で行い、内肛門括約筋を少しだけ切開します。切開すると言ってもほんの少しのため、肛門のしまりが悪くなることはないとされていますが、切開された括約筋の間が、うまく線維化されて修復されなければ、便失禁などの原因になりますので、年をとってからのことを考えると少し心配です。
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