痔は日本人の成人の3人に1人がかかっている病気で、痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔瘻(穴痔)がありますが、その中でも最も多いのが「痔核(いぼ痔)」です。
通常肛門は、便やガスが無意識のうちに漏れたりしないように、「括約筋」という筋肉で閉じられています。しかし、これだけでは不十分なため、肛門の出口から数センチ入ったところに、「肛門クッション」と呼ばれる柔らかな盛り上がり(血管の集まり)があります。これにより、括約筋が強い力で収縮しなくても便などが漏れない仕組みになっています。
肛門クッションは、水道の蛇口に付いているゴム栓(パッキン)のような役割を果たしています。痔核(いぼ痔)は、「肛門クッション」が大きくなったものですが、なぜこの肛門クッションが腫れて大きくなるのでしょうか。
排便をするときにいきむと、血管にかかる圧力は200mmHgにもなります。200mmHgという圧力は、脳の血管であれば破裂してもおかしくない圧力です。排便のたびにいきむと、肛門周囲の血管に負担がかかり続けます。すると、肛門クッションの血流が悪くなり、うっ血して腫れるのです。腫れて大きくなると、肛門の外に飛び出したりするようになります。また、排便の際、腫れて大きくなった痔核の粘膜が便でこすられると出血します。これが「痔核」による出血です。
痔核は、肛門クッションがどこで大きくなったかによって呼び名が変わります。
・内痔核…歯状線より内側
・外痔核…歯状線より外側
内痔核の場合は、あおむけに寝てお腹側を12時とした場合に、3時、7時、11時の位置に多く現れます。(肛門時計)直腸粘膜は、自律神経に支配されているため、痛みはありません。
また、肛門クッションが肛門上皮・肛門部皮膚をともなって肛門の外まで出てくるような状態もあります。これが、いわゆる「脱肛」です。内痔核が大きくなってくると、外痔核もともなうことになります。こうした状態を「内外痔核」といいますが、肛門は脊髄神経に支配されているため、傷ついたりすると痛みます。外痔核のほとんどは内痔核の進行にともなってあらわれてきます。
内痔核は重症度によって以下の4段階に分類されます。
・Ⅰ度…排便時に出血がありますが、痔核が肛門の外へは脱出しません。
・Ⅱ度…出血に加え排便時に痔核が肛門外へ脱出しますが、自然に中に引っ込んでしまいます。
・Ⅲ度…排便時に脱出した痔核が、指で押し込まないと元に戻らない状態。
・Ⅳ度…排便の時だけでなく普段も痔核が脱出したままのもの(脱肛)。
Ⅰ度
Ⅱ度
Ⅲ度
Ⅳ度
1. ALT注射法
当院では術後の疼痛緩和、入院期間の短縮を目的として、できるだけ不要な切り取りはしない方針で治療を行っています。その代表となる治療法が「ALTA注射法」です。ALTAは、2005年に保険適応となり注目されている方法です。
ALTAという注射薬を内痔核に直接注射することによって痔核を縮小させ、本来あるべき位置に吊り上げる方法です。メスを入れないため治療後の痛みが少なく入院期間も短期間で済みますが、全ての痔核に効果があるわけではありません。適応を厳密に選択しなければ再発することがあります。
※注射療法(ALTA)の注意事項注射の方法が複雑であるため、安易に行うと様々な合併症の危険があります。現在ALTA注射療法は資格を持った医師に限って施行されています。当院の医師は全員資格を持っており熟知しています。
2. ACL法(肛門クッション吊り上げ術)~肛門における美容形成的手術
当院では皮膚および肛門上皮の脱出を伴う内痔核に対しての手術方法として、ズレ落ちた皮膚・肛門上皮・クッションをそれぞれ括約筋・直腸壁から剥離し、本来あるべき位置と思われるところにもどして固定するという手術法を開発し、20年前から行っております。
この手術方法により、術後の疼痛を軽減でき、また術後大量出血の可能性も少ないために、入院期間が大幅に短縮できるようになりました。当院では年間2,000例を超える内痔核の手術を行っています。
3. ALT注射法+ACL法(肛門クッション吊り上げ術)併用
ALTA注射法を行う時、ALTA注射のみでは改善しないような大きな痔核に対しては、必要に応じて形成術を併用して(形成術とALTAの併用療法)、できるだけ肛門に優しく、痛みの少ない治療法を選択しています。
✓. ALTA注射法とACL法を併用することの大きなメリット
・脱出の多い痔核でも少量のALTAで治療可能。
・術後の大量出血の可能性が低い。
・切り取らないため、肛門狭窄の心配がない。
・入院期間が大幅に短縮できる。
・肛門に優しく、術後の痛みが軽い。
・術後の出来上がりがキレイ。
・手術時間が短い。
30年以上前に行われてきた治療はQOL(生活の質)を下げてしまうような治療がほとんどでした。
1. 結紮切除法(けっさつせつじょほう)- 切り取る手術の代表
結紮切除法は、内痔核の手術法として最も一般的なもので、世界中でこの手術が主流になっています。
まず、内痔核を器具ではさんでひっぱりながら、肛門の外側の皮膚をV字形に切開することから始めます。そして、肛門括約筋を傷つけないように、痔核を粘膜とともに剥離させ、その根元にある動脈をしばります(結紮)。このようにして、痔核に流れる血液を止め、痔核の部分だけを切除します。そして、痔核のあとに便がたまらないように、患部を形成し、手術は終了です。
今でも日本中で行われていますが、当院では20年前からほとんど行なわなくなりました。理由は次の通りです。
・肛門機能に必要な肛門クッションを切り取らなければならないこと。
・切り取ることにより、患者さんへの負担が大きい。
・再発症例を見ると、切り取った部分だけ肛門が狭くなっている。
・再発症例を見ると、切り取った部分が瘢痕化して硬くなってしまっている。
・再発症例を見ると、再脱出は瘢痕部分の口側粘膜だけでなく、瘢痕部分も一緒に脱出している。
2. ホワイトヘッド法
痔核のある部位の肛門上皮と粘膜を、全周性(環状)に切除し、縫合する方法です。悪いところをその周りも含めて全て切り取ってしまうので、肛門の機能が損なわれてしまい、後遺症に苦しめられるケースが続出しました。30年前くらいから行われなくなった手術です。
3. 腐食剤注入療法
腐食剤注射療法は、劇薬を痔核に直接注射し、痔核をまるごと腐らせて除去するという方法です。手術後の痛みが強く、現在では行われていません。
4. 凍結療法
液体窒素などで患部を凍結させ、壊死したところを切り取る、という方法です。再発率が高いので、現在ではあまり行われていません。
5. ゴム輪結紮(けっさつ)療法
輪ゴム結紮器を、内痔核の根元にかけてしばり、血行を遮断することで患部を少しずつ壊死させ、脱落させます。輪ゴムがかからない大きな内痔核や、痛みを感じる神経がある外痔核には使用できません。
また、痔核が落ちるときに出血を起こすこともあるため、内痔核の治療に有効ではありますが、対象となる患者さんが限定される治療法ということができます。
6. PPH法
PPH法は、1993年にイタリアのロンゴ博士によって開発されました。腸を吻合する器具に似た筒状の器具(サーキュラー・ステープラー)を肛門に挿入し、直腸粘膜を筒の内側にはさんで、内痔核を切り取らず、痔核の2cm上の直腸粘膜を筒状に切り取ります。
しかし、正常な直腸粘膜を切除することへの疑問は残ります。また、肛門の手術には繊細な感覚が要求されます。
それが患者さんのQOL(生活の質)に結びつくことも否定できません。その手術を機械で行うことに抵抗を感じる外科医も多く、予想されたより普及していません。
7. レーザー治療法
レーザー治療法は痔核にレーザー光線を当てて凝固し、縮小させて切り取る方法です。病院の外来で簡単に受けられ、入院せずに帰宅することができます。しかし、根治的な手術を目指したものではないため、再発も多くあります。
最近では、半導体を用いた新たなレーザー療法が開発され、注目されています。これをICG併用半導体レーザー療法といいます。ICG(インドシアニン・グリーン)とは、肝臓の機能の測定に用いる色素で、レーザー光線を吸収する性質があり、これを利用することでレーザー光線の照射をコントロールし、治療を行うレーザー療法です。
しかし、まだ非常に新しい方法なので症例数が少ないことと、10年間の経過観察がまだできていないことがあります。また、レーザーを照射後、その周囲が11~2週間ほど腫れる可能性があることと、外痔核には照射できません。
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