直腸脱(ちょくちょうだつ)
内痔核が肛門から脱出することを「脱肛」と呼びます。これとは別に、直腸全体が肛門から脱出してくることがあります。これを 「直腸脱」 といいます。直腸脱は高齢の女性に多く見られ、脱出の大きさは鶏卵大から握りこぶし大にもなります。ひどい場合は長さ5~10センチの直腸が反転し、二重になった形で脱出してきます。
主な原因は、骨盤のなかの臓器を支えている筋肉や靭帯が弱くなってしまうことです。加齢もまた、直腸脱の原因になります。直腸が脱出しても、激しい痛みをともなうことはありません。ただ、脱出した直腸の粘膜からの粘液の漏れ、出血、残便感といった不快な症状に苦労します。歩いていても、トイレでも脱出してしまい、自分でそのつど押し込んで元に戻さなければなりません。便失禁や便秘などの排便機能の障害をともなうことも多くあります。
とはいえ、悪性疾患ではないため、そのままで生命にかかわるようなことはありません。ただ完全に治すことを希望される場合、多くは手術しか方法がありません。手術をしても再発が多く、100種類を超えるさまざまな手術法が試みられています。大きく分けると「開腹する手術法」と、「肛門のほうから手術する方法」の二つになります。この二つの方法のうち、再発が少ないのは開腹する手術法です。ただ、患者さんには高齢者が多いこともあり、体への負担と、開腹手術による合併症が問題になります。また、伸びきった直腸を切り取らないため、手術後に患者さんから便通異常、とくに便秘や残便感があるという訴えも多くあります。
日本では、合併症の少ない肛門のほうからの手術法を選択することが多いようです。肛門側からの治療法には、「ガントー三輪法」と「デロルメ法」があります。ガントー三輪法は、脱出した直腸粘膜をできるかぎり無数に縛り、てるてる坊主のようなこぶをつくり、縫い縮める方法です。体をそれほど傷つけない治療法といえますが、これも直腸を切り取らないため、術後の便通異常(とくに便秘や残便感)の訴えがあります。
当院の治療法
当院では、「デロルメ法」で手術を行っています。
この手術は、伸びきった不要な脱出直腸の粘膜部分を肛門側から切除して直腸を縮め、肛門管の出囗を少しゆるめます。お腹を切らないために高齢者でも安全に手術できるうえ、再発もきわめて少なくなっています。出血量もごく少量で、輸血の必要はありません。当院では、年平均約30例の手術を行っています。